何が違う?何かが違う!文化財IPM清掃
◆IPMでは日常清掃が大事
文化財IPMにおいては、日常の管理がとても大切な役割を担っています。
日常の管理とは、すなわち、整理・整頓、清掃、清潔を保つことであり、それらの作業中に、点検・発見が含まれます。
みなさんは、掃除や片付けは得意ですか?
清掃や清潔の意識って、意識に個人差がありますよね。「丸く掃いてないか隅々をチェック」、「障子の桟を指でぬぐって埃をチェック」、家庭の掃除をめぐる場面では、そんなことがあるとかないとか…。
想像するだけで、コワイ、コワイです~!
しかし!文化財を守る立場となれば、積もった埃や虫の死骸などは文化財害虫やカビの成長を助長させるために存在を許してはならず、清潔な空間を保つ意識があってこそ。日々の清掃が、文化財を守る礎となるのです。
そのためにも、『清掃のしやすさ』は重要です。収蔵庫においては、なるべく床に資料を直置きしないようにしましょう。棚にのらないものは、移動させやすい状態を保つなどの工夫をします。簡単には動かせない資料が置いてあると、そこは清掃の手が入らなくなってしまうのです。
資料の整理を定期的におこなって、行き届いた清掃が出来るように心がけましょう。
◆文化財IPM清掃と日常清掃の違い
日常の清掃をきちんとおこなっていても、文化財IPM清掃は必要なのでしょうか?
文化財IPM清掃は、通常の清掃と具体的に何が違うのでしょう?
簡単にいうと、文化財IPM清掃は、虫やカビが発生しにくい環境となるよう、普段ではやりきれない箇所まで徹底的に清掃することが目的となります。ピカピカきれいにするのが目的ではなく、カビや塵埃や虫の死骸また生きた虫などを除去し、文化財害虫等の生物類の発生を抑制するのが目的。
私達がどのような作業をしているのかは、次の章で写真と共にご紹介しますね!
館のみなさまによる日常的な清掃・点検の他、状態によって前後しますが、収蔵庫などの文化財IPM清掃は1~3年に1度程度おこなうことで、資料・資材への影響が少ない状態を保てると考えています。
◆写真で見る文化財IPM清掃
HEPAフィルタ付の吸引力の高い掃除機を用いて、塵埃などを吸い上げます。
HEPAフィルタは、カビ類の胞子も通さないため、吸い上げた塵埃が掃除機の排気口から出ていきません。私達作業員は、防護服やマスクや手袋などを着用していますが、HEPAフィルタのおかげで、さらに安心して作業にあたれます。
文化財IPM清掃では、虫やカビの棲みかとなる隙間への対処こそが重要なため、床面から壁の立ち上がりなどの端の隅々から、床面の隙間はもちろんのこと、狙いを定めて吸い上げていきます。
動かせるけれど普段は動かさない棚を動かし、なかなか届かない隙間も潜り込んで…。
さらにノズルを伸ばし、腕を伸ばし…。出来る限り隅々まで、ブラシや先細ノズルで吸い上げます。
据え付けの棚は、外せる棚であれば、最下段を外して棚下を清掃します。(ただし、資料の移動は学芸員のみなさまにお願いしております)
外せない狭い棚下の場合も、専用の清掃用具で届く限り丁寧に除塵します。
床面は、作業中に舞い上がらないよう、まず、作業前に吸引力の高いHEPAフィルタ付掃除機でおもだった塵埃を吸い上げます。
天井・壁・棚の除塵作業を全て終えてから、もう一度、床面をしっかり除塵します。
棚上や壁面、照明や空調口など、高所の除塵もお任せください!
壁面、扉、棚の表面は、埃が溜まっているところはHEPAフィルタ付掃除機で吸ってから、マイクロファイバークロスで拭き、消毒用エタノールで清拭処理をします。
照明器具は蛍光灯も外して拭き上げ、給気口や排気口なども掃除をします。
天井・壁・床面も、掃除機での除塵を終えたら、マイクロファイバークロスで拭き上げ、最後に日本薬局方消毒用エタノールで清拭処理をします。
チャタテムシ類が生息しやすい床の立ち上がりや、棚が床と接する箇所は、念入りに除菌をします。
以上のように、簡単ではありますが、重点的IPM清掃の様子をご紹介させて頂きました。
私も作業員として働く一員ですが、うっすら表面を覆い目には定かにわからない埃であっても、清拭していくことでクリアになり、空間が清浄になっていくことが感じられます。
時間が許す限り手を動かし、室内の備品やスリッパなどを拭き上げ、あ、これも掃除したい、ここもやりたい…と、集中して作業にあたっていると…。「休憩にしましょう」の声を無視して没頭し続けてしまい、「休憩時間ですよ!」と、怒られることも…。
きれいになっていく作業って、夢中になってしまいますよね!鍋磨きとか…?そうじゃありませんか?
私どもの清掃のあとに、お客様から「空気が違いますね!」と驚きの声を頂けるのが嬉しくて、ついつい熱が入ってしまうのです…。許してください、長谷川さん!
※長谷川談:
作業員の休憩時間は事故防止のために大切です。作業効率を上げる意味でも大切です。(キッパリ)
◆こんなときにも文化財IPM清掃
文化財IPM清掃は、塵埃が溜まってしまった、築年数の古い建物だけにおこなうことではありません。新築の館や収蔵庫も、資料を搬入する前に、文化財IPM清掃をすることが大切です。
一般的な清掃では取り除ききれていない、木くずや端材の欠片、壁面にうっすら付着した木粉、工事期間中に入り込んでいた昆虫類等、新築というイメージからすると、思いもよらないような塵埃が、文化財IPM清掃で除去されるのです。
せっかくの新築建造物ですから、まっさらな清浄空間に、安心して資料を保存したいですね。
新品の棚側面の網目に至るまで、きっちり清拭させて頂きます!
◆IPMトラップとの合わせ技
文化財IPM清掃で、塵埃・昆虫類は除去されますが、大切なのは今後の管理。定期的な清掃と昆虫調査の実施をしていくことが、資料の生物被害の予防や早期発見に繋がっていきます。
その際、目視のみでは確認できない昆虫類の生息を確認するため、文化財IPMに適した昆虫トラップの設置が必要です。チャタテムシなど、湿気を好む昆虫類の生息が見られれば、湿度の管理見直しの指針となりますし、今後の除塵除虫処理時にも、詳細な昆虫の生息状況が把握できていることにより、清掃の重点箇所を想定しながら効果的に対処することが可能となります。
そのためには、昆虫用トラップの設置が重要なのです。
当社の「IPMトラップ」は、捕獲率が高く、展示室に置いても目立ちにくいデザインで、微細な昆虫類も捕獲しやすい、同定しやすい、こだわりのオリジナルトラップです。ご希望の方にはサンプルをお送りしております。ぜひ、お試しください。ご連絡お待ちしております!
最後が宣伝のようになってしまいましたが(笑)、清掃とトラップの合わせ技は、本当におすすめです。
おおむね1~3年に1度程度
プロに任せた文化財IPM清掃を
IPMトラップと合わせて
適切な管理にお役立てください
by とみぃ