書籍清掃のあれこれ

清掃

◆カビの発生に気づくとき

いつものように、蔵書を取りに行き、目的の書籍を取ろうとのばした手が止まる… この白い物体は…ま、まさか… 上下左右の書籍に目を走らせ、ぞっとしながら、背を向けていた側の書架を振りかえると… これまでには無かった白い「模様」が、そちらこちらに…!!あっ、隣の書架にも…、その裏の書架にも…!!

「もうお部屋に入りたくな~い!」
どうしても必要な書籍があるときは、息を止めて足早に!
ササッとアルコールで表紙のカビを拭いたら、これでいい?

ちょっと待ってください!

適切な処置をしないと、大切な蔵書や健康に問題を起こしてしまうことがあります。 カビの発生に気づいたときには、既に書架周辺や部屋全体に胞子が浮遊している可能性がありますし、 背表紙のカビは見えやすく把握しやすいですが、書籍の見返しや天にもカビは潜んでいるのです。 さらに、棚の奥、書架の間にたまった埃にも、カビの栄養源があるのです。 ちゃんと除去・対策をしないと大変なことになってしまいます!

「もうイヤだ~」って、なりますよね。

◆書籍に生えるカビ ~どうして発生したの?~

お客様から、「これまで、この部屋の本にカビが生えたことはなかったのですが…」というご相談をお受けすることがあります。
カビの発生には、一定の条件が必要です。これまでは条件が揃わなかったものの、その年の特異な天候、雨漏りなど建築物の要因、衝立を新しく設置するなどの室内環境の変化、空調の不具合や外気取り入れなどの空気の流れの変化で、室内環境がカビ発生に適したものとなってしまったわけです。
一定の条件といっても、現場それぞれの状況があり、ここで一概に「どうして発生したのか」を述べるのは適さないでしょう。
事例それぞれに、カビ発生の原因を探り、予防・対策についても、所見を述べさせて頂いておりますので、ご安心ください!

◆間違った処置は状況の悪化を招く?!

「カビがあることが耐えられない!とりあえず見えるものだけでも、エタノールで拭いてしまいたい!」 …という衝動にかられそうになりませんか?

いきなり拭くのは良くないこともあります!!
いきなりカビを拭いてしまうと、カビの跡(シミ)が書籍に残ってしまうことが往々にしてあるのです。

綺麗になったようにみえて、時間が経つとうっすら浮かび上がってくる、困りもの……。
また、一般的なエタノールには、肌を保護するための保湿成分や材質を溶解させやすい除菌成分が入っているものがあり、注意が必要です。 大切な書籍をなるべく傷めないよう、書籍清掃に適した局方消毒用エタノールを使用して、この先も長く保存していきたいですね。

まずは、乾燥して不活性化…すなわち隔離して日光にあててから、カビを掃いたい(除塵したい)ところですが、大量の書籍を処理するとなると、難しいと言えるでしょう。 しかも、除塵作業は、作業者(人体)への影響・安全性も考慮しなければなりません。

「カビを掃うなら、掃除機で吸えばいいのでは?」
…と思ったりしませんか?

一般的な掃除機(家庭用)で吸うのもNGです!!

家庭用掃除機のフィルターでは吸い込んだカビを、排気口からまき散らしてしまうのです。
ノズルの形状によっては、大切な書籍を傷めてしまう恐れもあります。

カビに気づいたときから、実際の清掃実施日までの間は、いったいどうすればいいのでしょうか。
これはとても難しい問題です。
ただちに「隔離」、すなわち、カビが発生した書籍のある空間と健全な空間とで、空気交換がない状態を保つようにするのが理想ですが、カビ被害の状況や書籍の量、施設のスペース確保の問題や建物の造りなどによって、対応できることが異なるのが現状です。
事例それぞれの状況によって、出来る限りのことをお伝えします。
一刻も早く方針等を決めて、処置日を早期に迎えましょう。

◆書籍清掃って、どんなことをするの?

私たち作業員が、どのように書籍を清掃するか、具体的にご説明します!

※状況により、作業内容は変わります。ご了承ください。

大量のカビが発生している状況の場合
▶︎ 作業前に、床面をHEPA付掃除機で清掃し、カビや塵埃の舞い上がりを防止

  1. HEPAフィルター付き掃除機で、背表紙についたカビを除去して、カビの拡散防止をはかる
  2. 書籍を1棚ごとにブックワゴンに乗せて、除塵作業場所へ移動
  3. 棚の除塵と局方消毒用エタノールによる清拭清掃
  4. 書籍清掃用除塵機の上で、刷毛・化学繊維ワイパー・マイクロファイバークロスを、適宜、使い分けながら、表紙・裏表紙・天・地・小口・見返しの除塵
  5. 局方消毒用エタノールによる、表紙・裏表紙・天・地・小口・見返しの清拭処理
  6. 局方消毒用エタノールで清拭処理したブックワゴンに、清掃後の書籍を乗せて、保管場所へ戻す
  7. 処理終了書籍の棚ごとに、簡易養生をして、カビ、塵埃の再付着防止
  8. 書籍清掃完了後の書庫内床面HEPAフィルター付き掃除機による清掃

作業員は、カビ胞子等、塵埃の吸い込みによる健康被害を留意して、防護衣、防塵マスク・帽子・手袋等を着用して、安全に作業にあたっています!

書籍清掃用除塵機は、作業台の天板全面が吸引する装置。台の上で、刷毛で掃った塵埃を、吸い込み、プレフィルターとHEPEフィルターでろ過して排気する、いわば大きな空気清浄機といったところ。排気の勢いを弱めて排出することで、塵埃の舞い上がりを防止する優れもの。
区切られた作業場の確保が難しくても、この装置が、書架のある部屋内での作業を可能にしています。

刷毛は馬毛で、書籍を傷めないよう、しなやかで静電気をおこしにくいものを選んでいます。
作業完了後には、カビや塵埃を除去するために、適宜、清掃と除菌をしています。
お店で柔らかそうな刷毛をみると、つい手にとって「書籍清掃に良さそう…」とフサフサ触ってしまうのは、もはや職業病かもしれません?!

除菌が目的の局方消毒用エタノールによる清拭処理ですが、コーティングされた紙の表紙などは、ツヤツヤ綺麗になることもあり、清掃効果を実感して、嬉しくなります。
とはいえ、紙力が低下した貴重な書籍のことも多く、なかなかに繊細さが必要な作業でもあるのです!

◆今後の予防と対策 ~もうカビが発生して欲しくない!~

「せっかく綺麗になった書籍と書架…。もう、同じ思いはしたくない…」

はい、そうですよね!
予防・対策について、適切な管理方法をお伝えしています。

ただし、カビの胞子は完全に除去できるものではありません。ごく普通に空気中に存在しているのです。多くは、温度・湿度管理をすることで、カビが発生しない環境を保つことが出来ます。

デジタル温湿度計等を用いて、温度(特に湿度)をチェック、管理することで、予防出来るでしょう。
空気の流れがよどみやすい場所やカビの発生しやすい場所などサーキュレーターで空気の循環を良くすることも効果的です。
表面湿度画像を表示できるサーモグラフィカメラを用いて、建物構造に問題が無いかどうかの点検をおこない、問題箇所を修繕することで、カビ被害だけではなく虫害を予防できることもあります。
定期的な清掃で、カビの栄養源となるホコリや汚れを取り除くことも大切です!
カビの発生しない環境づくりの具体的な対策また方向性のご提案をさせていただきます。

書籍清掃を終えたけど、カビの生えにくい環境にはまだできていない…
そんなときは、カビ類を不活性化する「ライセント」を空間に噴霧することもご検討ください。 なお、「ライセント」は、1シーズン程度カビの発生を抑制することが可能です。

◆書籍清掃のやりがい ~終わりに~

数日~数週間にわたる、書籍清掃の終盤間際、お客様が状況確認にいらして、扉を開けて一歩中に入ったときに、「前と全然違いますね!清浄な空間になったのがわかります!」と感想を述べて下さいます。

入室も躊躇したぐらいのお部屋が、また以前のように利用出来るようになり、資料や文献の一層の活用が期待されますね!私たちも喜びでいっぱいになる瞬間です。

大切な資料である書籍の清掃を、私たちに任せてくださったこと、貴重な資料が後世へと繋がっていくお手伝いが出来たことに感謝すると共に、お客様の嬉しそうな笑顔が、何よりのご褒美なのです。 ピカピカになった書架を満足気に眺め、ウキウキと防護服を脱いで、現場を後にする私たちでした!

「これはカビ…?!」をみつけたら、まずはご連絡ください☆

by とみぃ

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